普段、特に意識しなくてもいつも自然と分泌される唾液。そんな唾液が全身疾患にも大きな影響を与えるほどだとわかったのは最近です。大きな手術があるとまずは、口の中にトラブルや治療すべき歯がないかどうかをチェックするのも最近は当たり前になりました。
唾液にはどんなパワーがあり、疾患に対してどんな役割を果たしてくれるのでしょうか?
ドライマウス チェックリスト
- 口の渇きが3ヶ月以上続いている
- 耳の下が繰り返し腫れる
- 味がよくわからない
- 乾いた食べ物が飲みこみにくい
- 日中水をよく飲む
- 夜中に水を飲むために起きる
- 口の中がねばねばする
- 口の中が渇いてしゃべりにくい
- 口臭がある
- 舌の痛みがある
ドライマウス判定
- 該当数が1個以下
心配なし - 該当数が3~4個
要注意 - 該当数が5個以上
危険領域
唾液と健康の関係
唾液がつくられる場所
唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺という三大唾液腺と、唇や頬、舌などの粘膜に存在する小さな唾液腺から分泌されています。口の中が乾燥しないよう常に分泌されていますが、その量は1日でなんと1~1.5リットルにも及びます。
唾液の分泌は交感神経と副交感神経の働きによって調節されています。緊張状態を表現するとき「固唾をのむ」という言葉を使いますが、まさにその通り。緊張していると交感神経が優位になりネバネバした唾液が出て口の渇きを感じます。緊張状態にあるときは、口臭がするので注意しなければいけません。
一方、副交感神経が優位になりリラックスした状態の時は、サラサラした唾液が出て口の潤い感を感じます。私たちの意思にかかわらず、唾液は体の状態に合わせて自然にコントロールされているのです。その成分の99.5%は水分ですが、単なる水ではなく体の健康を維持するための成分がたくさん含まれています。
睡液の役割・効能とは
唾液には大きく分けると3つの役割があります。1つ目は「ものがおいしく食べられる」です。食事の際、分泌量が一気に増える唾液は「潤滑油としての働き」があり、口の中に入った食べ物を湿らせ、舌の動きや飲み込みをスムーズにしてくれます。
また、口の中を適度に湿らせてくれるので発音がしやすくなり、会話を楽しみながら食事がおいしくいただけます。
また「食べ物の味を感じさせる働き」も持っています。食物に含まれる味覚物質が唾液に溶け、舌にある味覚を感じる器官・味蕾と反応することで私たちは味を感じます。ですが、唾液の量が少ないと味覚物質が溶け出すことができず味を感じにくくなります。
どんなものを食べても味を感じなくなると、食べる楽しみが失せ、食欲減退につながります。
さらに「消化を助ける働き」もあります。唾液に含まれる消化酵素のアミラーゼがデンプンを分解し、ブドウ糖などに作り変えてくれます。ご飯をよく噛んで唾液と混ぜてあげると、甘みを感じるのはこのためです。
2つ目は「口の健康を守る」です。歯の表面のエナメル質は酸性になると溶け出し虫歯になりやすくなります。唾液には「口の中が酸性に傾くのを防ぐ働き」があり虫歯の予防だけでなく、細菌の繁殖も予防してくれます。さ
らに唾液中のカルシウムやリン酸が「溶けた歯を修復」してくれます。
ほかにも「歯に付着した汚れ(細菌)を洗い流す働き」「歯や口の粘膜を保護する働き」があり、感染や損傷から守ってくれています。
3つ目は「全身の健康を守る」です。唾液中には抗菌作用を持つさまざまな物質(リゾチーム・ペルオキシダーゼ・ラクトフェリンなど)が存在し、インフルエンザや肺炎などの感染症から体を守ってくれます。
唾液の分泌が不十分だと食べ物を噛む力や飲み込む力も弱くなってしまいます。すると充分な栄養を摂ることができなくなり、病気にかかりやすくなります。唾液がきちんと分泌されていれば口の中の健康はもちろん、全身の健康も維持できるはずです。
最近、耳にするようになった「ドライマウス」とは?
ドライマウスとはさまざまな原因によって唾液が出にくくなり、慢性的に口の中が乾いた状態になることを指します。欧米の疫学調査を基準にすると、日本のドライマウス潜在患者は800万人以上と考えられ、その予備軍は3000万人ともいわれています。
一般的なドライマウスの症状としては「口が渇く」「水をよく飲みたくなる」「唾液がネバネバする」「ビスケットなど乾いたものが食べにくい」などですが、慢性化すると「舌が痛い」「舌がザラザラする」「唇が乾いてひび割れる」「味がよく分からない」「食べ物が飲み込みにくい」「口が渇いて長時間の会話ができない」などの障害が生じ、食べること、話すことさえ苦痛になってきます。
ここまでくると、人生の楽しみがはとんど奪われてしまったようにさえ感じます。
ドライマウスの原因
加齢、更年期、ストレス、生活習慣(飲酒・喫煙)、環境の変化、食生活の変化、噛む筋力の低下、薬の副作用など、さまざまな要因が複合的に関係しているといわれています。唾液のおよそ3分の2は耳下腺から出ていますが、加齢により腺自体が萎縮し、徐々に機能が落ちてきます。
加齢によるものなのでしょうがないことですが、その度合いはそれまでの食生活や生活習慣によって変わってくると思います。あと高齢者に多いのは口呼吸です。口呼吸をすると口の中が乾き、唾液の量が減ってしまいます。
若年層に一番多い原因はストレスでしょう。ストレスは交感神経を優位にし、睡液の量を減少させます。はかにも抗ヒスタミン剤、血圧降下剤、抗うつ剤、抗パーキンソン剤、精神安定剤など飲んでいる薬の影響も大きいと思われます。
また、重篤なドライマウスの中には「シェークレン症候群」などの自己免疫疾患が隠れている場合もあります。40~60歳の女性に多く、口の渇き(ドライマウス)のはかに、目の乾き(ドライアイ)、関節痛、疲れやすいなどの症状が出ます。
口の乾燥がとくにひどい場合は専門医に相談してみてください。
ドライマウス全身疾患にも影響する
最近の研究で唾液が歯周病を介して全身の健康とつながっていることが明らかになってきています。先はど睡液の効能を説明しましたが唾液が減少すると、洗浄作用が働かなくなり歯垢や歯石が付着しやすくなります。抗菌作用や緩衝作用も働かなくなるので口の中の歯周病原因菌が繁殖し歯周病が悪化します。
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そして、炎症によって出てくる物質がインスリンの血糖値をコントロールする働きを妨げたり、動脈硬化を誘導する物質が出たりして、糖尿病のほか、狭心症や心筋梗塞など心臓血管疾患のリスクを高める可能性があります。
口の中がサラサラしているということは、知らない間に唾液が体を守ってくれているということ。口の中が潤っていることが健康につながっているのです。
唾液の分泌を増やすためにはどうしたらいい?
唾液を増やすには、日頃から口の機能を積極的にトレーニングすることが大切です。筋肉はまったく使わないと、1日3%も容積が減少してしまいます。それは歩ける高齢者を3日間寝たきりにすると4 日目には歩けなくなるともいわれているはどです。
この筋萎縮は顔面の筋肉にも起こります。萎縮が進むと会話量、表情の動き、唾液量などが減少してしまいます。そこで、毎日できる簡単な唾液腺マッサージぜひ実践してみてください。また唾液をしっかり出すにはよくかんで食べることも大切です。「よくかんで食べなさい!」と親から叱られた思い出のある人も多いと思いますが、忙しいとなかなか実行するのは難しいもの。
そこで、自然にかむ回数を増やすことができる工夫をご紹介しますのでこちらも試してみてください。唾液腺マッサージは音楽でも聞きながら気軽な気持ちで行いましょう。音楽をかけながらマッサージをすることで緊張がとれストレスから解放される、それが一番の目的です。元気な高齢者は表情が豊かで、口の中が唾液で潤っています。唾液のパワーを味方につけ、ずっと健康で幸せな毎日を送りたいものです。
毎日できるマッサージ
- 耳下腺
- 左右の耳の下あたりに3本の両指の腹を軽くあて、後ろから前へ指を回しながら1 分間やさしくゆっくりともみはぐします。
- 顎下腺
- 左右の下顎の骨の外側に3 本の指を添え、親指の腹を骨の内側のくぼみにあて、親指を顎先に動かしながら1 分間もみはぐします。
- 舌下腺
- 人差し指を横にして下唇の下にあて、親指を顎下のくぼんだ部分に。親指を押すように動かし、下から1分間刺激します。
唾液アップの改善術
- ひとくちの量を減らすひと口のかむ回数は量によって変わらないという研究結果が出ていますので、ひと口の量を減らせば、結果的にかむ回数を増やすことができます。
- 食事の時間に余裕をもたせる時間に追われると、つい早食いになってしまいます。食事時間をゆっくりとれば、かむ回数を増やすことができます
- 歯ごたえのある食材を選ぶ野菜をはじめ食物繊維の豊富な食品を選んだり、野菜や肉を硬めに仕上げるのも効果的です。
- 薄味にする薄味にすると食材本来の味を味わおうとするため、よくかむようになります。
- 食材は厚めに大きめに切るぶつ切りや乱切りのように大きめに切ると、飲み込める大きさになるまでよくかむので、自然にかむ回数がさらに増えます。
- ひと口のかむ回数を5回増やすことからはじめる目標は80回ですが、いきなりかむ回数を増やすのは大変です。まずは5 回増やし、慣れてきたらさらに少しずつ増やしていきましょう。
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